蜘蛛

クモってタイトル漢字で書いた方がかっこいいなと思って蜘蛛にしたわ

 

というのも、私の視界に1匹のクモが入り込んだからである。そしてこのクモは巣を張っているのだが、重大なミスを犯してしまっている。

 

それは巣を張った場所が電車の中、つり革と吊り広告の中間であるからだ。

 

電車の中に虫が侵入していることは割とあるが、虫の生息数でいえば電車の中と外では圧倒的に中の方が少ない。

 

クモはそんな場所に巣を張ってしまったことに気づいているだろうか。

 

この場所で食べ物にありつくにはまず電車に虫が侵入してくれなくてはならないが、それも無さそうだ。巣に引っかかっているのは人間の衣服から湧くホコリばかりである。ホコリは食べられない。

 

しかしクモに電車の中であることは認識できない。クモが認識できるのは、待っているが獲物がこないという事実だけだろう。

 

この各駅停車餓死行きに乗ってしまっているクモだが、さすがにいつまで経っても獲物が引っかからないことに空腹というストレスを通して気づいている頃だろう。

 

この状況。果たして私だったらどうするだろうか。

 

このまま獲物が引っかかるのを信じて待つのか、それともリスクを負っても新天地を求めて移動するのか、

 

そう、このクモはもう他人ではない。転職に悩む私自身だ。

 

当然だが移動にはエネルギーを要する。糸を作り出すのにクモは膨大なエネルギーを消費しているらしい。自らの体にあるエネルギーには限りがある。


そのエネルギーを耐え忍ぶのに使うのか、新たなエネルギーを得るために使うのか。

 

私は蜘蛛を尻目に電車を降りた。